前職(国家公務員)を辞し、通っていた夜学に専念しようと思った矢先、先代である父親が病に伏し、その後まもなく他界。卒業まで1年を残していたため、その間母親が引継ぎ、卒業後、本格的に事業に携わることになりました。
学んでいたことは法律、そして仕事は行政からの転身で、全く異分野となる業界「モノづくり=製造」に戸惑いしかなく、逃げ出したくなったこともある中、当初、関わってくださった方々のご厚意やご指導のもとなんとか乗り越えられました。
その後、世界的経済危機(リーマンショック)や取引先の破綻などの荒波に揉まれながらも、令和5年(西暦2023年)になれば、人生の半世紀以上となる30年もの間継続できたことになります。
これも様々な幸運に恵まれたおかげなのですが、中でも、人との「縁」によることが大きかったと感じております。
まず、弊社にご発注くださった、お客様との縁。
ひたむきにその生産を支えてくれた、従業員、内職さん、協力工場の方々との縁。
資金面でいつも協力してくださった、信用金庫、銀行さんの担当の方々との縁。
生産するための設備や材料を整えてくださった方々との縁。
商工会や税理士さんなど、間接的に会社をサポートしてくださった方々との縁。
個人的な趣味、サッカーや釣りなどから広がっていった縁。
そして、もちろん家族や学校を通じて知り合えた友人との縁もありました。 そのような出会いとその後のつながりを大切にしてきたことで、その幸運に浴すことができました。 私に関わってくださった、くださっている方々には感謝しかありません。
その間に社会情勢も大きく変わっていきました。
募集するたびに、断り切れないほどの応募があった家内労働作業者、いわゆる「内職さん」は、一時は20人ほどおりましたが、高齢化も進み、現在は数名にまで減ってしまいました。
労働集約型であるトランス製造は、人こそ資本です。
弊社の真の資産は、寡兵なれど、各々がキラリと輝く技術をもった、内職さん、従業員、そして協力工場の方々です。
モノづくりを継続してできる力をもつ人は年々少なくなってきております。
トランスやコイルを、巻線から完成品まで作れる熟練工を日本の産業から消してはいけません。
なぜならば、何代も続いている鰻屋さんの秘伝のたれ、のような技術が確かにそこに存在しているからです。
一度切らしたら、同じものはできない、と考えなければなりません。
少子化も進む中、その継承の難しさが今後最大の経営課題となることは間違いなく、その仕組みを作ることや、人材確保のため、賃金のみならず会社全体の質を上げることに取り組む所存です。
これまでしてきたことにさらに磨きをかけて、社会の変化を予測し、先取りして対応していけるように、真摯に、ひたむきに、全社一体で、良い製品を供給し続けられるように邁進してまいります。
有限会社美郷コイルを今後ともお引き立てのほどよろしくお願い申し上げます。
取締役社長 田村 淳